I thought you would change. ――2――


 俺がアリババ殿に抱いていた羨望が、憎しみと嫉妬に変わり果てたのはいつからだろうか。

 アクティアの罪人の処刑で対立した時だろうか。
 初めて好意を寄せた女性に振られた時だろうか。
 それとも、特異な存在である第四のマギに協力を拒まれた時だろうか。

 あるいは、煌帝国に着いた後、姉に助力を拒まれた時か。
 力を出し切ったにもかかわらず母親の命を奪えずに終わった時か。

 もしくは、その全てか。

 

 部下が命令通りアリババ殿を捕らえたと報告が上がってきた。
 殺すことは容易かった。何の前触れもなく命を奪うことは、日常の中にその刃を潜ませてしまえば容易い。
 けれども、ただ殺すのでは俺は満たされない。彼がこの世界から消えた所で、やり残した後悔が残るのはわかっていた。もっとも、その後悔は彼を手にかけたことに対してではなく、彼を綺麗なままで終わらせてしまうことの後悔に他ならないと俺は思っていた。

 

――だって、不公平だ。

 国を失った王族としては、俺もアリババ殿も立場は大きく変わらない。
 亡くなったムスタシム王国のドゥニヤ王女も同じだ。俺はアルサーメンに狂わされる前の煌帝国を取り戻したい。ドゥニヤ王女もマグノシュタットに奪われた国の再建を望み力を欲した。その過程で、俺は父と兄上達を殺したアルサーメンと自分の母親を、ドゥニヤ王女は国を転覆させ従者を殺したマグノシュタットの魔導士達を憎み恨んでいる。
 けれども、アリババ殿だけは国を失い、民を傷つけられたにもかかわらず煌帝国を憎まないと言った。煌の王族である俺のことも憎まないと――。

 俺とは対照的だった。母親とアルサーメンに加担した人間を全て憎み消し去りたいと願っている俺とは。誰も恨まないという彼は立場が似通っているはずなのに何もかも正反対だった。

――俺にとって彼は眩し過ぎる。

 その心が他者に対してあまりに優し過ぎて美しく見えて――、俺がどれだけ憎しみに囚われているかを気づかされる。心が醜く歪んでいるのだと思い知らされてしまう。そして、わかってしまう。モルジアナ殿もアラジン殿も決して俺を選ばない。彼を選ぶのだと――。俺が欲しているものをアリババ殿は全て手にいれている。
 だから、彼は黒く塗りつぶしてしまわないといけない。苦境に立たせ、蹂躙して、おのれの無力さを噛みしめさせて、運命を呪わせたい。俺と同じように。

――そうすれば、きっと。

 彼らはアリババ殿を選ばないだろう。アリババ殿も俺と同じ所まで堕ちてくれる。国を失った王族が至る場所だと安心できるようになる。
 そうすれば、きっと俺はひとりじゃなくなるんでしょう。