ゆめのはなし


  燃え盛る建物。襲ってくる異形の怪物達。
  ただ守られるだけで怯えて、守ってくれる兄達の背に隠れてばかりいる自分。
  それを、俺は見ていた。確かに、俺はその時のこの少年と同じ視点で、炎を見ていた。

「ねぇ、いつまでも終わらない夢を見ている。この感覚に辟易しませんか?」

  声が頭に響いてくる。
  瞬きをすればまた場面が変わっている。今度は何もない暗闇だ。いや、何もなくはない。
  正面に、見知った顔の青年が立っていた。

「これは夢だ。現実じゃない。あなたも気付いているでしょう。見たくない、知りたくないと口にすればこの夢はすぐにでも終わります」
「……っ!」

  その言葉に息が詰まった。
  知らないのに知っているような錯覚。誰かの記憶の追体験。その誰かは――白龍だった。

「何があなたをここまで駆り立てるんですか?」

  どこが地面かもわからないけれど、その地を踏みしめてゆっくりと白龍が近づいてきた。正面から視線がぶつかった。その蒼い瞳が俺の心の内を見透かすように細められた。

「あなたが見ているのは俺じゃない。誰かを重ねてみているだけだ」

  一言。
  そう切り捨てられた。

「その人を助けられなかったんですか? その贖罪を俺で果たそうと? だとしたら茶番だ。俺はその人じゃない。意味はありませんよ」

  その誰かに、俺は心当たりがちゃんと、あった。似ていると思ってしまったから。
  重ねて見られることはきっと苦痛だろう。それが理由で手を差し伸ばされることも。

「……キッカケは確かにそうだったかもしれない」

  重ねてみてしまったことは確かだ。誰かに似ていると、その姿を追ってしまっていた。
  ぐっと強く拳を握りしめた。 
  でも、それが。俺が白龍自身を見ていなかった理由にはならない。

「けれどっ! 今、俺の前にいるのはお前なんだ、白龍! 細かい理由なんて知らねえよ、俺にだってわかんねぇよ! ほっとけないんだ! お前が苦しんでいるのがわかるから……っ!」

  俺はちゃんとお前を見ていたよ。お前のひたむきさも誠実な所も、面倒な所もちょっとムカつく所も! それでもまだわからない知らないことがたくさんあるんだ。

「俺は! お前のことがもっと知りたいっ!!!」

  それがどんなに辛いことだとしても、知って何かができるって訳じゃないかもしれないけど。それでも分かりあいたいから、分かりあえないまま終わるなんてもう嫌だから!
  返事を待っているとゆっくりと白龍の姿が霞んで暗闇に溶けていこうとしている。咄嗟に手を伸ばそうとしたら身体は金縛りにあったかのように動かなかった。

「……気が遠くなるでしょう。この暗くて忌まわしい炎だけが灯りの、この夢が」

  暗闇の奥でさっきまで見ていた炎がちらちらと広がり始める。





「あなたも。押しつぶされてしまえばいいのに」


  炎が視界に広がるにつれて、白龍の姿は暗闇の炎の間に霞んで消えていった。