「ある晴れた日のこと」
それはよく晴れた日だった。
空は晴天、街の中央にある噴水広場には人々の笑い声。
遺跡船唯一の町では、いつものように穏やかな時間が流れていた。
「こーらーっ!」
……流れていたはずだった。
「こらー! 待ちなさーぃ!!」
「だ、だぁれが待つかい、ボケー!」
噴水広場に集まっていた面々は反射的に声のするほうを向いた。
噴水広場より丘の上にある『灯台』の方から声は聞こえてきた。
坂の上からだんだんと下り、明らかにこちらに迫ってくる何かに、危機感の鋭いものはそうそうに安全な所に引き上げ、その声によく聞き覚えのある者は諦めと呆れが混じった表情になって、それを待った。
先にやってきたのは大柄の犬型の魔物ガルフに乗った長身の男だった。
獣は広場にいる面々を見つけて表情を輝かせた。
――これで助かる!
表情は如実に語っていたが、その希望は次の一言で無残に打ち砕かれた。
「グレイブ!」
「ぎゃあぁああ!」
爪術により地面が突然隆起したのと共に、それに思いっきり跳ね飛ばされた獣と男は一瞬の後、悲鳴を上げた。
そのままぐるりと宙で回転して、地面に打ち付けられる。
「ぐべっ」
その背後に息を切らして走ってきた、少女が立っていた。
「ふっふっふ。ようやく…、捕まえたわよー」
「何すんじゃ、シャボン娘! 爪術使うなんて卑怯じゃぞ!」
「そっちだってギーとんに乗ってたじゃん! それより、どーゆーことなのよ! どーして、あたしの料理が食べれないって言うのさ!」
「そがに黒いもんは料理とは言わん! どないしたらそがなもんができるんじゃ!」
「うっさいわね! 食べてみないとわかんないでしょ! 大体、練習中なんだから」
口論を始めた二人の傍らをすり抜けて、唯一ギートだけが広場にいた仲間に近づいた。
「お前も大変だな」
「くーん」
広場に居合わせた青年、セネルの言葉にギートは頷くように声を上げた。
その隣では街の保安官、ウィルが爪術で壊された道を見つめて眉間を険しく押さえていた。
口論をしている二人がウィルによって拳骨を食らわされる時はそう遠くない。