――あれ? おっかしいなぁ……。
見間違いじゃなきゃ、白龍とモルジアナは正面から睨みあっている。これってどうゆうことなんだ? モルジアナが気を失っている間は、「僕はこの人にも謝りたい」って白龍は言っていて、謝った後は爽やかな和解の空気が流れるもんだとばかり俺は思っていた。
しかし、目の前にしている空気は和やかとは到底言い難い。むしろ悪化している。少なくとも白龍は小さくなってからモルジアナを睨んでなかった。その白龍が一瞬でも火花が散ったかと思う様な視線をモルジアナに投げかけたのだから、俺は思わず言葉を失っていた。かといって、部屋で睨みあっていても不毛なだけだ。モルジアナが目を覚ましたなら、やんなきゃいけないことがある。
「起きて早々悪いんだけどモルジアナに手伝って欲しいことがあるんだ。それと白龍にもお願いが」
おそるおそる声をかけると、睨みあっていた二人がパッと俺を振り返った。うわっ。タイミング見事に一緒で息ぴったりじゃないか。と思ったことは、とりあえず胸にしまっておいた。
やりたいことというのは白龍の荷物の移動と、その荷物の検査。
まずは白龍の部屋にあった荷物を俺の部屋に移した。あのまま誰もいない部屋に荷物を放っておいて盗まれでもしたら後味が悪い。とゆーのが理由の一つ。もう一つの理由は、白龍がちっこくなった原因を掴むモノが荷物に混じってないかを探す為だった。人の荷物を勝手に探るのも悪い気がするので、一応白龍の了承を得てでの探し物だ。
「間違っても変なものがあったら、迂闊に触るなよ」
そう言って俺達は白龍の荷物を調べたけれど、結論から言えば手がかりはなかった。そもそも荷物そのものが極端に少ない。必要最低限の荷物――水筒、食料、財布、衣服に加えて、何かの植物の種が何十種類も入った袋があるくらいだ。
植物の種についちゃザガンの能力絡みだとは思うけど、俺は植物の学者でもないからどれがどの植物の種かなんてさっぱりだ。袋に手を突っ込んで掴んでみても、手のひらからパラパラと下に落ちるだけ。横目で白龍を見たが、この小さい白龍が植物に詳しい様子もなく、不思議そうに種を見ている。
――この中のどれかを食べると小さい子供になっちゃうとか? んな植物、聞いたことねーぞ。
「目新しい収穫はなさそうですね」
白龍の長い槍を壁に立てかけて、モルジアナが振り返る。これで調べた荷物は全部だ。
「そうだなー。これ見よがしにわかりやすい魔法道具でもあればって、思ったんだけどな。白龍も見覚えがあるものとかないか?」
「……すいません。何も分からないんです」
「そっか。そんな気落ちするなよ。やっぱりアラジンと合流して、ソロモンの知恵でも何でも借りて、元に戻す方法を探るってのが得策かな」
「他に良い方法があればいいんですが」
「アラジン?」
「俺達の仲間だよ。白龍とも迷宮攻略をした仲間なんだぜ。すっごい魔道士なんだぞ!」
「出発はいつにしますか?」
窓の外は西日に傾いている。今から歩いたのではすぐに夕暮れになってしまうだろう。
「明日の朝だ」
きっぱりと俺は告げた。アラジンとの合流地点に行くまでは、あと四つほど村を移動しないといけない。幼い白龍を連れていくとなると、その分大変かもしれない。
――まぁ白龍が疲れたら俺かモルジアナがおんぶすればいいか。
そう楽観視していた俺は、その出発前に予想しなかった幾つもの問題が立ちはだかることをまだ知らなかった。