頭上の窓から伸びるツタとベッドの下から伸びてくるツタ。どうなっているのかは分からないけれど、植物でありながら動物のように動き這いまわるそれらは獲物を狙う空腹状態の砂漠のヒヤシンスにどこか似ているように見えた。もし、似ている植物なら今俺が見ているツタはそいつの一部でしかなくて、本体はまったく別の所にいるんだろう。
気味が悪いし、得体の知れないものに拘束される恐怖は嫌悪感を遥かに上回っていた。
頭上から伸びてきたツタに、足の拘束をほどこうともがいていた両手も絡め取られ強い力で両手を頭上に上げさせられる。同時に体が宙に浮いた。一瞬後に襲ってきた柔らかい布の感触に、俺は理解した。元に戻されたんだ。ベッドの上に。
「やめろ! はなせっ!」
言葉が通じるのかなんて俺はわからない。それでも叫んで、手足を拘束から逃れようと身をひねった。
嫌な汗が背中を伝っていく。いやだ。放して欲しい。天井を見ることしかできない姿勢。ベッドの上に押し付けられるようにして拘束されて、体が小刻みに震えていくのを俺は止められなかった。
『やめろっ! い、やだ!!』
視界に何も捕らえられない真っ暗な中で体中を這い回る手の感触。
『うぁ……っ、白龍っ! なん、で……』
自身に絡められた手で強制的に高められていく熱。
『……や、やめっ…。あぁああっ! はく、りゅっ、やめっ! ァアアア――ッ!』
思い出したくもない情けない自分の嬌声。
視界を塞がれた暗闇の中で完全に気を失うまで行為は続けられた。無理矢理達せられて、息も絶え絶えになりながらも手は止められなかった。最後には最初と同じように後ろを剛直で貫かれているのに快楽を拾い始めていて、女と同じように喘いでいて――。
体が震えた。与えられたのは痛みだけじゃなかった。むしろ、それだけだったら耐えられそうだったのに。凌辱を受けたベッドでまた身を拘束され、それが記憶が呼び起されて、――体の奥が疼いたことに愕然とした。嘘だろ。違う。俺はそんなんじゃない。
――……なんだ?
足元から上へと這いずってくる冷たく不快な感触に意識が戻された。ベッドに引きずり戻したツタが、今度は俺の足を這って上がってきていた。
力を込めて閉じようとしても、まとわりついた戒めに両足を大きく開かされた。
「う、ぁあ……」
ゆっくりとそれは侵入してきた。窄まりを力を入れて閉めていたにも関わらず、その冷たいざらついた先端はゆっくりとその存在を誇示しながら中に入ってきた。同時にどろりと緩んだ窄まりから流れていくものがある。見えないけど昨日散々中に出された精液なんだろう。それがツタが中に入った分だけ外に溢れてくる。
中に残された精液が潤滑液代わりになってツタの侵入を助けている。
「……ふっ…んぐぅ……」
上がりそうになる声を必死にかみ殺す。体の中に入ってくる冷たい血の通っていないもの。そのざらざらとした表面が内壁をすり、例えようのない痛みを俺に与えていた。俺が苦しもうが、体を捻って逃れようとしていようが、それは体の奥へと入ってくる。手足を縛っている蔦は逃れようともがく俺をベッドに押さえつけていた。
同時にベッドの下からさらに伸びてきた幾本ものツタが体を包んでいるシーツにもぐりこんできた。白いシーツの中に入り込んでくる緑色のそれらは異様だった。俺の見えないところで、ざらざらとしたものが肌をする感触が全身へと広がっていく。
――嫌だっ! こんなの……っ。
これでは気を失う前に行われた行為となんら変わらない。
意味が見つけられない凌辱がまだ続く?
植物が人間に欲情するなんて聞いたことがない。となれば考えなくてもこれを操っているのは白龍だ。
「……ん、ぁああああっ!」
胸の飾りも愛撫するようにすられれば、痛いはずなのに頭が白むような感覚が全身を走った。体がびくりとはねた。下半身にもその擦る感触は広がっていき、自身にも何かが巻きついてきた。痛みに縮こまっていたはずの自身をそれは優しく愛撫してきた。一方で中に入ってきたツタは奥へ奥へと律動を繰り返しながら突き進んでいる。
「あ、あ―――ッ!」
ざらりと、中に入っていた蔦がある一点をその表面ですりあげた。体が跳ねる。ダメ。そこはヤダ。昨晩は男性の性器に散々なぶられて快楽を拾っていた箇所だ。そこをざらざらとしたものが間髪いれず連続してすりあげ続ける。痛かったはずなのに体を支配する終わりのない快楽にすぼまりが締まって、蔦を締め付けてしまう。
「や、あっ! そこ、やめっ! んぁ、あん、ア――ッ!」
腹に下から液体が飛んできた。イった。体が痙攣しているのに中を動くものも、身体中をはい回る蔦も、俺の性器を愛撫する感触も止まらなくて、与えられる熱に身体中がおかしくなる。頭も熱に浮かされて何も考えられない。
「ヤァッ! ぁ、アァアッ! たす、け」
強い快楽に喚き、頭を振った。誰もいないのに、植物が言葉を解しているのもわからないのに、助けを求めて叫んだ。何度も何度も。
そうしないと自分が何を考えているかもわからなくなりそうだった。