只今睡眠中―前科者

 

 すっぽりと腕の中に納まったそれは思ったよりも軽かった。とりあえず、一番担ぎやすいように持ち変える。

「人攫いみたいですね。モーゼスさんにぴったりです」

 第一の感想はこれだった。

「こいつが一番持ちやすいんじゃ。仕方ないじゃろ」

 憎たらしいことを言うジェイにため息交じりに返事を返すモーゼス。ぐっすりとモンスターの眠り粉を浴びてしまったノーマは何度声をかけても、頬を引っ張っても起きることはなかった。仕方なく森を抜け出すことを優先させた結果、モーゼスが荷物のように右肩にノーマを担ぎ上げたのである。誰も文句は言わなかったが、ジェイの一言に何故か皆が沈黙した。

「ワレら、どがあしたんじゃ?」

 全員の視線はモーゼスに集まっていた。空間に漂う微妙な空気に思わず一歩後ずさりをする。

「そういや、お前シャーリィを攫ったよな」

 胸の前で腕を組んでセネル。

「確かにぴったりだ。シャンドル」

 口元は笑っているが微妙に目は笑っていないクロエ。

「お似合いねえ」

 右頬に手を当て、にっこりと笑顔のグリューネ。

「私、こんな風に攫われたんでしたっけ」

 シャーリィはそれ以上何も言わなかったが、何か言いたそうな目でノーマを担いでいるモーゼスを見上げていた。返ってきた言葉と反応に思わずモーゼスは沈黙した。ギートも過去の行動をしっかり覚えているのか少しうなだれている。唯一この雰囲気と違う空気をかもし出しているグリューネは、話の流れを理解しているのかわからないが一人のほほんとほほえんでいる。

「あ、あのなあ。そがな過ぎたこと言うても仕方ないじゃろ」

「確かに前科者であるが、今は雑談をしている場合でもないな。一刻も早く森から抜け出ることが最優先だ」

 ピシャリと、ウィルが言い切った。気を使ったつもりなのかはわからないが、この一声で取りあえずこの話題は終わったと周りの者は判断したらしい。ウィルが先頭を歩き、足を止めていたみんなもそれに付いて行く。唯一モーゼスだけが憮然とした表情で突っ立っている。

「ま、そうですね。こんな所で言い争っていたらモーゼスさんが人攫いをやっている意味がなくなります」

「だからこれは人攫いとは違うじゃろ!」

 叫びは森の中に木霊した。しかし、返事は返ってこない。話の原因となっている少女は未だ穏やかな眠りの中にあった。