只今睡眠中―思い出

 

 ちろちろと流れる小川の傍で、見覚えのある栗毛頭の少女を見つけたのはついさっきだった。

「おーい。シャボン娘ー。はよ、起きんかい。こんな所におったら風邪引くぞ。…はあ、起きんなあ」

 小さく耳元で囁いてみるが、深い眠りの中にいる彼女は起きようともしない。いや、起きないことは長いようで短い付き合いの中で分かっていた。

 時は夕暮れ時。空は少し赤く染まっていた。少女のあどけない寝顔がその夕日に照らされている。幸せそうな寝顔だ。どちらかというと昼寝をしている猫のような、動物じみた寝顔。本当に気分良く寝ているのだと他者に知らしめているようだった。

 起こすことを取りあえず諦めて、モーゼスはなんとなく隣に腰を下ろした。

「そういや、シャボン娘はよう寝てたわ。いつでもなあ」

 顔を覗き込みながら今までの事を走馬灯のように思い返した。

「いつでも…、笑っとったな」

 出会ってからというもののとんでもない冒険に巻き込まれる毎日。

 いつも太陽のように笑っていた少女。

 その笑顔にどれだけ助けられたことか。

 数えたらきっと数え切れないだろう。

 間違っても、そんなことは言えないに違いない。照れ臭すぎて。

「ずっと笑うんは大変じゃな。ようわかる。辛い時に笑うんは本当に難しいんじゃ」

 決して良い事ばかりではなかった。

 たくさんの人と戦った。

 たくさんの人が傷つき、死んでいく戦場も走った。

 命の危険なんて当然のつき物だった。

「無理し過ぎんといいんじゃがのって、何ガラにもないことワイは言っとるんじゃ」

 そういえば。とモーゼスは思い返した。

 爪術の試し台にされたこと。

 解除に失敗した罠の犠牲になったこと。

 その他ろくでもないことエトセトラ。

 普段忘れかえっていることもついでに思い出したモーゼスは、ぴたりと動きを停止した。この少女の寝顔が少し憎たらしくなり、ほっぺをつねりながら起こすのはこれより少し後。